Dgt Magazine

イベント登壇/EOF2019〜技術的チャレンジと事業貢献を両立させる組織作りとは〜


2019年10月31日に、「エンジニアリング組織をもっとオープンに」をビジョンに、エンジニアリング・マネージメントとすべてのソフトウェア開発者のためのカンファレンス『EOF2019』が開催されました。

ビジョンに「エンジニアリング組織をもっとオープンに」を掲げ、カンファレンスは「Team / Communication」「Developer eXperience」「Architecture / Technology」「Design / Product」などのカテゴリからなる計21セッションの他、OST、EM.FM公開収録など、参加者全員が抱えている課題や普段の取り組みなどを共有しあい、よりオープンにエンジニアリングマネージメントについて語り合える場にしようという試み。各セッションが行われるホールの外のオープンエリアには出展社のブースが設置され、資料を求める参加者の姿が多く見られました。

 


 

DGTからは技術部部長の平岡洋祐氏が登壇し、組織作りについて語りました。
なんと本セッションで、この日初の入場規制がかかり、会場は大盛況。立ち見の方も見受けられました。そんな中、平岡氏の「継続的なエンジニア組織のデザインに必要な事とは〜 エンジニア0人から40人規模の組織になるまでの道のり 〜」と銘打ったセッションが始まりました。

 

簡単な自己紹介の後はさっそく本題へ。

会社紹介

「創立5年でエンジニアが0人から40人に」「どんな問題を解決したか?」についての話が始まりましたが、その前にまずはDeNA Games Tokyoの紹介です。組織作りの話にあたり、どのような会社で、それゆえどんな問題が起きたか前提についての説明にもなるところです。
ここでは、DGTがゲーム運営に特化した事業展開のために発足したこと、リリースされたゲームをDGTに移管して運営するという事業について説明されました。

DGTにおけるエンジニア組織の歴史

平岡氏は組織の歴史を「黎明期(設立0年〜1年)」「成長期(2年〜3年)」「成熟期(4年〜現在)」に区分しました。各フェイズで起きた問題とその解決方法が紐解かれていきます。

黎明期-とにかく人がいない!

画面には聴講している方にもおなじみの『怪盗ロワイヤル』『農園ホッコリーナ』というタイトルアイコンが並びました。このときはオリジナルIPだったため、まだステークホルダーも少なく、ウェブブラウザ向けということで技術領域は限定的なものでした。そこでまず直面した課題はというと…「とにかく人がいない」。

会社自体が発足したてということもあり、日々の運営はあるのに人がいないという状況に。ここで取ったアクションは、「認知度を上げる」「採用戦略を定める」。転職イベントや説明会などに積極的に参加しました。

 

 

また、当時のゲーム業界は業界経験を重視した採用が多い傾向でしたが、DGTは業界経験を不問とし、「思考力を重視する」という戦略を定めました。さらに、よい人材採用のためには人材エージェントとの関係も大切と考え、エージェントに出向いて書類選考をその場で行ったりもしました。また、エージェントの方に会社の雰囲気を肌で感じてもらうため、実際に会社へ来ていただき、入社した社員の話を聞いて理解を深めていただきました。

これらのアクションの結果、必要な人員を確保し、また、長期的な採用をコミットすることで「人材エージェントさんとの関係構築も達成できた」と平岡氏は言います。

 

成長期-「暗黙知をなくす」

会社は2-3年目のフェイズを迎え、取り扱いタイトルが拡充されていきました。DeNAオリジナルIPのおおよそのブラウザタイトルの移管が一通り終わり、これまでの「オリジナルIP×ウェブブラウザ」に加え、他社IP、自社IPのアプリタイトルなどが増えていったのです。これらは今まで扱ってきたタイトルよりステークホルダーが多く、規模も大きいものでした。

ここで直面した課題とはどんなものだったのでしょうか。平岡氏は「人の入れ替わりによる品質の劣化」「採用人材のキャッチアップ遅れ」「マネージャーの負荷の増加」を挙げました。

「人の入れ替わりによる品質の劣化」とは、どういうことか?一気に人を入れ替えたことにより、黎明期から長い間関わっていた人材たちの持つ「暗黙知」が消滅してしまいました。これにより品質劣化を引き起こしてしまいました。

2つめの「採用キャッチアップの遅れ」と一口に言っても内容は様々で、研修が整備されていない問題、候補者の見極め不足問題、アサイン戦略イケてない問題などがありました。
エンジニアの人数が増えた反面、マネージャーの負荷が増加してしまいました。当時は2名のマネージャーが1人あたり15名程度を見る体制になっていました。

これらの問題を払拭するためのアクションはこのようなものでした。

 

 

まず、品質の劣化を抑えるために、基本的なスキル・知識や、タイトルごとの特殊ノウハウを形式知化しました。これをチェックリスト化することで、各人のスキルの「一人前判定」に使うなど、運用に取り入れました。また、資料を読むだけで終わっていた研修を一新しました。テスト・ワークショップ形式の研修に作り直し、ここで一定の水準に達するまでは配属しないようにしました。

採用した人材の能力のばらつきを防ぐために、ホワイトボードテストを必須化し、面接官の基準をすり合わせる場を設けました。これにより、面接官による合否の差分を減らせるようになりました。

 

 

人材不足の時期は、採用後、すぐに難易度の高い案件にアサインされる人もいましたが、これを止めました。まずは安定しているタイトルにアサインし、経験を積んだ状態になったところで難易度の高いタイトルにアサインする方針に切り替えました。

マネージャーの負荷の軽減として、マネージャーに求める要件を少し下げました。具体的にはピープルケアをミッションの中心とし、組織デザインの部分を外しました。さらに、評価指標の抽象度を下げ、評価をしやすくしました。そして、マネージャー自体の数も2人から6人に増やしました。

これらの施策により、地力を持ったエンジニアが入社してくるようになりました。

 

 

また、入社後の研修と安定したタイトルに関わるキャッチアップ期間を経て、チャレンジタイトルに移っていくサイクルの樹立ができ、組織としても持続可能な状態が見えてきました。

 

成熟期

そして、いよいよ成熟期を迎えます。大型タイトルの運営をこなしてきたことでDeNAからの信頼も増し、「アプリタイトルの運営をどんどんDGTに」という流れになりました。人員も増員され安定したかに見えますが、ここにはここで問題がありました。

成熟期-シニア層のチャレンジが見つからない

成熟期の課題。それは「シニア層のモチベーションの低下問題」でした。様々な問題を解決して成熟し、一通りの高難易度案件を解決したことにより、シニアのメンバーが次のチャレンジを見つけられないという状況が生じたのです。これはDGTだから起こり得た問題、というところもあります。一般的なゲーム会社であれば、新規タイトルにアサインすることによって次なるチャレンジを見つけていこうということになりますが、DGTはゲーム運営のノウハウを集約するために設立された会社です。会社にあるのは運営フェイズに入っているタイトルであって、完全なる「新規タイトル」はないのです。

しかも、実際にデモチが起こっているシニア層は、面と向かって不満として挙げてきたわけではありませんでした。シニアだからこそ、DGTの事業を理解し、構造的に仕方がない問題という風に捉えたことでデモチしていたのです。

事業領域の拡大を決定

前述のような課題と、もう一つ、DGTの経営陣の課題として、リリースされ安定期に入ったタイトルを運営し続ける事業だけでは弱く、さらなる価値を作らないといけないという課題があり、それらを併せて解決するアプローチとして事業領域の拡大に向けて動き出しました。

 

DGT×高知県」「DGT×和歌山県」「DGT×品川女子学院

見ただけでは何のことかわからないような異色のコラボばかりかと思いますが(笑)、これらのコラボはお客さんにもコラボした先方にも、そして社内にもよい影響をもたらしました。

 

 

さらに、技術的チャレンジの促進として、「Tech Driven Projet」を発足しました。

これは、「技術を起点に事業をつなげる」というもので、シニアエンジニアを集めて使ってみたい技術をリストアップしてもらい、そのリストをもとに企画メンバーと具体的な企画を考えるという流れです。実際にここ半年で動いたものとして、「ブラウザ×AR」「ブラウザ×シェーダー」「ブラウザ×Geolocation」「アプリ×AR」 などがあります。

 

 

これによって新しいチャレンジが生まれ、シニア層のエンジニアにとっても、組織としても持続可能なよい状態が生まれました。

 

 

これまでの組織を振り返って、「持続可能なエンジニア組織のデザインに必要なこと」についてまとめます。

人が足り、技術が満ちると次なるチャレンジが当然必要になってくるということ。だが、会社として技術的チャレンジがない事業をしていた時期がありました。成長を続けていった先に光がなければ、それは理想の組織ではありません。組織として持続していくためには、この改善は必須でした。

 

 

言い替えれば、ジュニア・ミドルが成長していった先のシニア層のロイヤリティを上げることが必須です。つまり、企業としては「技術的チャレンジ」とそれが必要とされる「事業」の融合を目指す必要があります。いくら技術的チャレンジを推奨しても、それが事業に貢献しなければ、「趣味でやればいい」=「DGTでやる意味がない」ということになってしまいます。逆に、事業貢献だけを求めることは、その人の時間を切り売りするだけになってしまいます。

 

 

DGTが掲げる「ゲーム運営の力で日常にいろどりを添える」というミッションのもとで、共に技術的チャレンジと事業貢献を両立させようと思っていただける方のご応募をお待ちしています。また、ここではお話しできなかったこともたくさんあるので、お気軽にブースでお声がけください、と平岡氏は締めくくりました。

※今回の資料はこちらからご覧いただけます

 

https://speakerdeck.com/hiraokayosuke/eof2019-dena-ver1-dot-6